自ら学ぶ児童を育成するために 〜ICTを活用した自由進度学習の実践~
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文部科学省も示しているように*、一人一人の児童生徒の特性や学習状況に応じた柔軟な指導や環境整備は、個別最適な学びを実現する上で重要な方策です。この取り組みを具体化する手段の一つとして、「自由進度学習」が挙げられていますが、 PISAの調査結果から、自律学習と自己効力感に関する日本のスコアは、OECD加盟国37か国中34位となっており、その改善は教育界の大きな課題と言えます。
本記事では、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善の実践によって、自ら思考し、判断・表現する機会を充実させたり、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実のなかで、自律した学習者の育成に取り組んだ実例をご紹介します。
執筆/東京都公立小学校教諭・河田侃也
*=学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料
自由進度学習とは
自由進度学習には以下の3つがあります。
- 単位時間の自由進度学習…1コマの授業内で児童が自分のペースで学習を進める方法。
- 単元内自由進度学習…単元の導入と、単元末のまとめを除き、単元の学習展開のほとんどを児童が自分で学びを進める学習方法。
- 完全自由進度学習…児童が全カリキュラムを自分のペースで学習できる形式。
自由進度学習は、学級や児童の実態に応じて行う時期や内容を検討していく必要があります。 私は、教師の役割は「環境を提供すること」であり、どの教科・領域でも「環境づくり」を意識しています。
私は、体育を専門に研究をしていますが、「児童がやってみたい・またやりたいと思える環境や教材」「児童が安全に学習に取り組める環境」など、児童が自ら学びをすすめることができるようにすること意識しています。 私が自由進度学習で児童に身に付けてほしい力は、「自分でやりきる力」です。私の学級の児童の作文を以下に掲載します。
私が2学期に頑張ったことは、「自由進度学習」で学ぶことです。2学期になってから初めてやったけれど、先生が自由進度を始める前にオリエンテーションをしてくれたり、資料や、どのように進めるかのスライドを用意してくれたりしたのでスムーズに取り組むことができたと思います。また、自由進度学習で難しかったことは、自分で「まとめ」を書くことです。自分で考えてもわからないときは、教室にある共有スペースで、友達と意見交換をして、自分では思いつかなかったことの参考にしたり、自分なりにまとめるようにしました。2学期の自由進度学習では、「自分でやりきる力」をつけることができたと思います。
私は、3学期に頑張りたいことは、毎回の授業で、分かりやすくノートをまとめることです。特に、暗記科目の理科や社会は、テスト前にノートを見せて説明しやすいと思ったからです。
3学期は、5年生に向けて丁寧に学習に取り組んでいきたいと思います。
そんな自由進度学習には、ICTの効果的な活用が必要不可欠だと感じています。私が活用した、ICTの活用は以下の通りです。
ICTの活用について
●Googleスプレッドシートによるポートフォリオ・リンク機能
学習の見通し・振り返りには、Googleスプレッドシートを活用します。
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スプレッドシートを活用するよさは、主に以下の3点です。
●振り返りの視覚化
1単位時間の中で学んだことを、自分の出席番号の行に振り返りを打ち込みます。 全員が一斉に編集することができるため、他の児童の振り返りを参考にすることができます。打ち込んだ文字数をカウントすることで、自然と多くの振り返りを打ち込む姿がありまし た。
●リンク機能の活用
スプレッドシートには、GoogleドキュメントやForms、スライドなどのリンク先にとぶことができる機能があります。今回は、学習の流れと、チェックテストのリンクを用意しました。 学習の流れへのリンクは、以下の通りです。
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チェックテストは、児童が選択して行います。Formsで行うと、即時に正答かが分かるので、自己の課題解決につなげることができます。
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●リンク機能を活用した学びの共有
他教科での実践ですが、自分の学んだことをGoogleスライドやCanvaなどにノートの代わりに記録していきます。そのリンク先を、自分の名前や振り返り先に貼ることで、他の子の学びをいつでも参考することができるようにしました。1人1人が学び切る力を身に付けるためにも、有効な手だてだと感じました。
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授業の進め方について
どの単元・領域でも、第1時は全体でオリエンテーションを行います。その際に、「単元のゴール」「単元の総時数」を示し、単元との出合いを大切にします。第4学年算数科「面積のくらべ方や表し方」では、第1時に以下のような流れで行いました。
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第1時の振り返りで、児童がこれからの単元でやってみたい・学びたいと思った内容を、学ばなければならない学習内容を終えた子が取り組む「+α」の項目に入れます。
今回であれば、「身近な物の面積を求める」が+αの内容です。他には、応用問題用のプリントをあらかじめ用意しておき、学びの進度が早い児童にも対応できるようにしています。
単元自由進度学習で学ぶ児童は、机を後方にして取り組みます。児童たちに対しては、教室前方で指導している教員が視覚的に邪魔をしないようにとの配慮であり、担任にとっては、児童がタブレット端末で別の内容を取り組んでいないか見取るためでもあります。
また、各児童は、机を離して取り組んでいます。ついつい隣の人と話をしたりして、気が散ることを防ぐためです。
しかし、友達と学びを共有することも大切です。そのため、教室の横に共有スペースを設けました。
学習の流れの中には、「友達との共有」も入れています。友達と意見を共有することで、考えの幅が広がります。共有する際は、共有スペースに向かい、意見を共有することで、「進める」「共有する」のメリハリをもって取り組むことができるようになってきました。
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単元の前に行うレディネステスト*で点数が振るわなかった児童や、単元に苦手感がある児童は、担任とともに学習を進めます。いずれかは、担任と学ぶ児童が少なくなり、自分で学び切る力が身に付いてほしいな、と担任の思いもありますが、一斉授業のよさもあるので、これからもやり方を模索していきたいと思っています。
また、単元全てを自由進度学習で行うのではなく、全体で確認をした方がよい時間は、一斉授業で取り組みます。一度学んでいる児童も、一緒に復習として学んでいき、確実な知識・技能の定着につなげていきたいと思っています。
*=Readiness Test for Mathematics。子どもが算数の学習を始めるために必要な基礎的な準備状態(レディネス)を測るためのテストです。
終わりに
ICTの活用も、自由進度学習も、その効果に疑問をもつ方も多いと思います。しかし、何事も取り組む前に臆することは、児童の前に立つ教師としていかがなものか、との疑問をむしろ覚えます。
児童は、日々、「新しいこと」に出合います。「新しいこと」を学びます。これから、目まぐるしく変化する世の中に対応する児童を育てていくためにも、「自由進度学習」は必要な学習方法の1つだと思います。しかし、一 斉学習を否定するわけではありません。それぞれのよさを活かし、目の前の児童を育てていきたいと思っています。そのためには、教員が環境を整えていく必要があります。教員が姿で示し、実践することが必要だと感じています。
社会に出ても、自分の力で「やりきる力」を身に付けるために、自由進度学習を組み入れた授業実践を重ねていきたいと思います。
私自身も研究途中なので、様々な実践を教えていただけたら幸いです。
【参考資料】
・授業力&学級経営力 2024年12月号「自由進度学習」パーフェクトガイド/明治図書出版
イラスト/イラストAC
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執筆
河田侃也(かわた なおや)
東京都公立小学校教諭
令和四年度東京教師道場部員
令和六年度第14期NPO健康・体育活性化センター小学校体育研究員