小五の道徳とオリジナル教材「はじまり そして未来へ」
山形県のある小学校で行われた佐藤幸司先生による小五の道徳授業を紹介します。独自教材を使ったオリジナルの道徳授業には、学級経営にも生かせるヒントがたくさんありました。
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
授業指導案(一部抜粋)
1.教材名
「はじまり そして未来へ」
2.ねらい
一人一人の幸福は、命あってこそ実現される。命を大切にしながら生きるーこれが、根源にある。本時では〈命のつながり〉を考えることを通して、自分の命・みんなの命がかけがえのない存在であることに気付き、命の尊厳について学習していく。
3.指導目標
D感動、畏敬の念 、関連 D生命の尊さ
長い年月を経て受け継がれ、これからも続いていく〈命〉に対して畏敬の念を抱く。
4.学習指導過程
①ポスターが示す「事実」について考える。
②絵本の読み聞かせを聞く。『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』作・絵:長谷川義史(BL出版)
5.授業の目標
自分たちの考えをつないで、授業をつくることができる。
教科書以外の教材を使う場合、気をつける点は?
大前提は、学習指導要領に準拠していることです。そして、中立性・公平性が保たれ、内容が正確であるかに留意します。特に、インターネットに掲載された個人のホームページの記述には確認が必要です。また、学年主任や教務主任、管理職等に「今度この資料で授業をしたいと思っています」と相談して授業づくりを進めていくのがよいでしょう。
本時の教材は、 総合格闘技イベントPRIDE.30(株式会社DSE)のポスターを使用しています。
導入:授業の始まりは答えやすい発問でウォーミングアップ
今回は初めて出会う子供たちとの出前授業です。慣れていない学級での授業は、緊張感があり発言が思うように出にくいことも想定します。そこで、まずは「誰でも答えられる」ような短く簡単な質問からスタートし、できるだけ多くの子供が発言できる場を作りましょう。
黒板に教材となるポスターを貼り、「このポスターから一つ、気付いたことを発表してもらいます。よく見てね」と伝えておきます。子供たちが見やすいように、席を立って前方へ集まってもらいました。こういった動き一つでも、雰囲気が少しずつ和らぎます。
端の列から順番に指名し、子供たちの発言を黒板に書いていきます。
赤ちゃんとお年寄りの手は、なぜつながっているのだろう?
2人は、なぜ手をつないでいるのだろう?
ちょっとした発言の違いにも注目し、
『つながっている』と『つないでいる』は違うよね。どう違う?
など、感じ方の理由を掘り下げて聞きます。同じ意見を言う子がいてもよいのです。導入は全員が参加することで、授業への意欲を高めます。
展開:単純な返答から、少しずつ授業の核心へ質問を進めて行く
学級全員の意見を聞いているうちにポスターのコピー「STARTING OVER」に着目した発言が出てきました。
スタートが赤ちゃんで、オーバーがお年寄りのこと
本時の目的である「命のつながり」を意識させるために、[START]と[OVER]の英語の意味を子供たちに伝えました。
すると、教室の後方で、ある子がつぶやきました。
赤ちゃんとして生まれ、お年寄りとして終わっていくってこと?
授業中に、子供が思わず口にした言葉はとても大切です。つぶやきを拾うことで、子供は認められた気持ちになり、主体的に学ぼうとする姿勢が生まれます。
この手は男性か女性かなども想像してもらいました。祖父母と同居している子も多く、祖父母の手の雰囲気で性別を予想するなど自分の家族を思い浮かべる発言も多く聞かれました。
他にもポスターの内容についていろいろな発言が出たので、後半につながる質問としてもう一つ「これは、赤ちゃんからつないでいるのか。お年寄りからつないでいるのか」と問いかけました。
お年寄りが赤ちゃんに対して、かわいいと伝えている
赤ちゃんが遊びたいと感じている
ここでもたくさんの意見が出ました。
子供たちの発言から本時の道徳的価値へ
つながりを意識したところで、子供たちに赤ちゃんと、お年寄りのどちらが[START]かを聞いてみると、子供たちは口々に
赤ちゃん!
と発言しました。
みんなの命は、誰からもらった?
お父さんとお母さん
お父さんとお母さんの命は、誰からもらった?
おじいちゃんと、おばあちゃん
おじいちゃんとおばあちゃんの命は?
命の始まりはどちらなのか、何となく子供たちが気付いたところをねらって、中心発問を行いました。命のつながりが受け継がれ、自分まで続いてきたことを、感じてくれたようです。
中心発問
・今、何が始まり何が終わろうとしているのか
・命の始まりはどちらなのか
終末:「命のつながり」を考えさせる絵本の読み聞かせでまとめに
授業の最後に、子供たちを教室の前方に集めて、絵本を読み聞かせました。読み聞かせを終えたら、あれこれ発問をせず、ちょうど読み終えた頃に、終了の時刻になるように進行します。今回の授業は、子供たちのなかに余韻を残すような終わり方を意識しました。
読み聞かせた絵本
『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』作・絵/長谷川義史(BL出版)
5歳の「ぼく」が抱いた「おじいちゃんのおとうさんはどんな人?」から始まる命のつながりを感じさせるストーリー。リズミカルな文体で、子供たちが大喜びの一冊です。
まとめ
授業のポイントは?
ポスター1枚を資料として、その中に含まれている道徳的な論点に気付き、自分たちの話合いで学習を進めていく授業です。教師は、その交通整理役を担います。授業終盤で、ポスターの英文字「starting over」に注目させます。ここから、命の「はじまりとおわり」へ思考を向けさせ、絵本の読み聞かせで授業を閉じます。
授業を終えて・・・
「飛び込み」での授業で、初対面の子供たちでした。発想が柔軟で、話合いが途絶えることなく続きました。祖父母と同居している子や小さな弟妹がいる子からは、自分の経験をもとにした意見がたくさん出ました。
授業を行った学校
山形県東根市立大富小学校 山形県東根市立大富小学校明治24年設立の歴史ある小学校。全校生徒数241名。自己肯定感を高め、正しい判断力と感性で、主体的に行動できる子供の育成に取り組んでいる。
授業の様子を、動画で見ることができます。くわしくはこちらをご覧ください。
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※視聴には、本誌に掲載されたパスワードが必要です。
写真/浅原孝子
『教育技術 小五小六』2019年11月号より