パフォーマンス力は自分らしさを活かした子どもへのアプローチ【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #13】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第13回「コミュニケーション科」の授業は、<パフォーマンス力は自分らしさを活かした子どもへのアプローチ>です。

「自己表現的言葉」で子どもの心をつかむ

コロナ禍の中、2021年度がスタートしました。私も多くの学校から授業を依頼され、子どもたちに会うのを今から楽しみにしているところです。

私の授業の多くは、子どもたちと初めて出会う授業になります。毎回が “学級開き” です(笑)。「どんな先生なんだろう」「真面目に受けなければ」と最初は緊張している子がほとんどです。

「子どもたちと一緒に授業をつくっていきたい」と私が思うように、子どもたちにもそう感じてもらえなければ「コミュニケーション科」の授業は成立しません。そのためにはどんな言葉がけやアクションが必要かを常に考えています。教師のパフォーマンス力とは、大げさな身振り手振りではなく、教師が自分らしさを活かした子どもへのアプローチです。その根底には、「子どもとともに授業をつくる」という思いが大切です。

特に重要なのが、授業の冒頭部分の言葉がけやアクションです。教師が一方的に指導するのではなく双方向で学び合うことを、子どもたちに即時に感じてもらうためです。そういう場面での言葉がけは、教師の感動からくる「自己表現的言葉」が中心になります。「いいねえ」「なるほどねえ」とほめながら、「先生はこう思うけれど、みんなはどう?」と子どもたちに投げかける会話体になります。短文でキャッチボールをしながら、お互いの距離を縮めていくのです。

一方的に教師が指導する「授業内容伝達言葉」に対して、「自己表現的言葉」は、教師の主観や個性、その先生らしさがそのまま形になります。教師が自己開示することで初めて、子どもたちも自己開示することができるのです。

このとき大切なのは、本心から「なるほど」「いいね」という言葉を発していることです。講演やセミナーの際、質問を受けたり参加者同士で話し合ってもらう場を設けますが、最初から積極的に関わってくる参加者はそう多くありません。大人でさえ難しいことなのに、子どもには当たり前のように挙手や話し合いを求めているのではないでしょうか。考えがまとまらないうちにいきなり指名され、しどろもどろになりながらも発表したことを、教師が「しっかり発表しなさい」とマイナスにとらえるか、「短い時間の中でよく考えたね」とプラスにとらえるか―教師の授業観が「自己表現的言葉」に表れるのです。

プライベートな言葉づかいに着目して

「休み時間は元気にしゃべっているのに、授業になると発表できない」―先生方から、よく聞く悩み事の一つです。

子どもたちはパブリックとプライベートの言葉を使い分けながら、学校生活を送っています。静かに聞き、必要なことだけを述べる授業がパブリック。自由に友達とおしゃべりをするのが休み時間のプライベート。もちろん使い分けは必要ですが、教師がパブリックの言葉を重視するあまり、両者が乖離してしまった結果ではないでしょうか。

「コミュニケーション科」はもとより、対話では、プライベートな言葉づかいも重要な役目をもちます。お互いの意見を自由に交わすときには、プライベートな言葉づかいが中心になり、みんなの前で発表するときは、パブリックの度合いが強くなるでしょう。コミュニケーションは、両者が幾重にも交わりながら進んでいくものです。

そのためには、プライベートな言葉づかいがいい形で表現できるよう、普段の授業の中でも取り入れていく必要があります。いい形とは、一人ひとりの意見や思いをお互いが尊重できること。教師が自由で楽しい場をつくり保障することです。最初の頃は、プライベートに振り切った独りよがりな言葉づかいも多いですが、ストップをかけたりせずぐっと我慢。勝手な発言をさせないため、教師の一方的な挙手・指名を繰り返すだけでは、いつまで経っても自由で活発な話し合いは育ちません。子どもたちはパブリックとプライベートを行ったり来たりしながら少しずつ経験を積み重ね、その場にふさわしい言葉づかいを身につけていくのです。

対話は教師主導ではなく、子どもたちが主体となる活動です。いわば主導権を子どもに預けるものです。普段はインストラクター的な役割が多い教師も、ここではファシリテーター役に徹し、子どもたちに預けましょう。子どもたちをどれだけ信じられるか、それもまた教師の力の一つなのです。

昨年度(2020年度)は授業をする機会が少なくなり、私自身も残念でなりませんでした。授業は、私自身の大切な学びの場でもあります。授業は、教師と子どもがつくり出すライブのようなもので、同じ授業は二度とないことを前回でも述べました。子どもとともにつくる授業は、教師自身の重要な学びの場であることを常に心がけてほしいと思っています。

実践!「コミュニケーション科」の授業
「あ」のつく言葉を探して遊ぼう!!

<高知県佐川町立黒岩小学校1、2年生>

声かけで、みんなノリノリに!

子どもたちが緊張と期待の表情で、菊池先生を拍手で迎えた。 
「1年生も2年生もみんな姿勢がめちゃくちゃいいですね。もう1回、姿勢がいい人の拍手でお願いします。どんな拍手がいいか知ってる? 指の骨が折れるぐらいたたくんですよ

菊池先生の声かけに、子どもたちは大爆笑。緊張した雰囲気が一気に和らいだ。菊池先生が黒板に「きくち」と書き、「読める人?」と尋ねると、一斉に手が挙がる。菊池先生がすかさず「読める人は、右手の中指の爪を天井に突き刺すように挙げましょう」。子どもたちの挙がっていた手がピンとなった。手が挙がっていない2人を見て、菊池先生が「3秒で友達と相談し合いましょう」と声をかけ、隣と教え合う。

「では、読める人?」
今度は全員の手が挙がった。
あてられた子が話す前に、菊池先生が「みんな拍手の準備はしているかな?」。発表後に大きな拍手が響いた。

「今日はみんなと楽しい時間にしたいと思います」と言いながら、黒板に「ひらがなであそぼう」と書いた。期待でわくわくしている子どもたちに「せっかく楽しく遊ぼうとしているので、先生が何かしようと言ったら、『イエイ!』とか『やったー!』『ワオ』って言ってもらえますか?」と菊池先生
「今日は遊ぼうと思います」
菊池先生が再び話しかけると、子どもたちが教室に鳴り響く声で「イエーーイッ!!」と叫んだ。教室が一気に熱くなった。

チョークリレーで言葉遊びの楽しさ倍増

あり あめ
あした あるく
「何か気づいたことがある人?」
一番後ろの子を指すと、菊池先生がその子の席まで向かう。すると、子どもたちの視線も菊池先生を追うように後ろの子に注がれた
「全部、最初の字が『あ』です」
正解に大きな拍手が起こった。菊池先生が、中でも元気よく拍手していた子のところに行き、「いいねえ。君が拍手リーダーだ!」とほめながら握手をした

チームに分かれて、「あ」のつく言葉を考える。黒板を参考にしながら、真剣に話し合う子どもたち。

まずは、自分一人で「あ」で始まる言葉を考える。次に3~4人のチームになって、お互いに考えた言葉を出し合ったあと、チョークリレーのスタート。チョークをバトン代わりに、チームごとに出した「あ」で始まる言葉を1人1個ずつ黒板に書き込み、数を競うものだ。
「がんばれーっ!」「あまがさ、まだ書いていないよっ」。教室中に、応援と声かけが響いた。
ゲーム終了後、菊池先生が4グループの欄に「・・・」と書かれている “言葉” を指しながら、「これが何を表しているかわかる人?」と尋ねると、何人もが手を挙げた。黒板の “言葉” は「・・・」がいくつも書いてある。一人の子が「『あめ』だと思います」と答え、菊池先生が書いた子に「あってる?」と尋ねると、その子がうなずいた。その子は字が書けず、絵で記していたのだ。「絵で表現してすごいね。みんなも友達の書いている言葉がわかるんだね」と菊池先生がみんなをほめると、子どもたちもにっこり笑った

「じゃあ、次はレベルをちょっと上げます」
菊池先生がそう言いながら、黒板に書き出した。

ありがあるく
あしたあそぶ
あめがあがる

「何か気づいた人?」
何人かが手を挙げた。そこで、再び自由に立ち歩いて友達と意見交換。
「黒板の言葉を使うといいかも」
「あー、それいいねえ」
男子と女子、1年生と2年生が一緒になって、賑やかに意見を交換し合った
話し合い後、横の列4人が発表した。

「あ」が6個ある
1行に2つずつ「あ」がある

「今からみんなにも考えてもらいます。考えつかなくても、みんなが教えてくれるから大丈夫。安心して考えてください
菊池先生が話すと、さっと取りかかった。

アメリカでアイスを食べる
あまいあんパンを食べる
アリクイがアリを食べようとしたけど、アリがアリクイの顔にきて、ああ困っちゃった

「あ」で始まるで言葉を5つも入れた発表に、教室から「おおーっ!」と歓声が起こった。
「5つも入れてすごいなあ。これからも言葉で楽しく遊べる教室にしてください」と菊池先生が話すと、「はいっ!!」とみんなの力強い返事が教室中に響き渡った。


 「指の骨が折れるぐらい」の拍手、「右手の中指の爪を天井に突き刺すよう」な挙手、と大げさに説明することで、子どもたちの動作も力強くなる。
 拍手や挙手などで体を動かし、大きな声を出すことで、緊張したカラダがほぐれ、“早くて柔らかい” 学びが生まれる。
 発表者の位置に教師が移動することで、子どもたちの視線も自然に発表者に向かう。
 元気いっぱいの “キーパーソン” に役割を担わせることで、楽しい雰囲気がより高まる。キーパーソンの子にとっても、役割を任されてうれしい。
 「気になる子」も、周りの子とのかかわりをつくらせることで、一人ひとりを大切にする学級になる。
 同性同士で話し合っていたら、わざと「男子も女子も一緒に話し合っているいいクラスだね」とほめるのも一手。
 難度が上がると、不安になる子もいる。「ほかの意見を写していい」と言葉がけをすることで、学級に「学び合い」の空気が生まれる。

『総合教育技術』2021年6/7月号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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