【木村泰子の「学びは楽しい」#13】「子どもが主語」の教育観を浸透させるには?

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

木村泰子先生が、すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスする連載第13回目。今回は、前回の小学校の先生からのご質問にあった、「子どもが主語」の教育の実現についてさらに深く考えていきます(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

【木村泰子の「学びは楽しい」#13】「子どもが主語」の教育観を浸透させるには? イラスト
イラスト/石川えりこ

「子どもが主語」への変革をあきらめない

14年目の小学校教員です。
質問②「子ども主語」の教育観が浸透するためには何が必要ですか?
自分は、考えれば考えるほど到底無理かなという気持ちになってしまいます。今は、保護者主語、委員会主語、管理職主語の教育だと思っています。学校の先生たちは、教育現場ではそのようにいかないのに、職員室では現場を無視した理想の言葉を語る風潮があります。大人の前では格好つけるというか、一般教員からなのか、管理職からなのか、教育委員会からなのか、子ども主語で行う教育活動が浸透するためには何が必要か、木村先生のご経験からの展望をお聞きしたいです。

前回から読者のみなさんも「子どもが主語の授業づくり・学校づくり」について、ご自分の考えをもたれたことと思いますが、いかがですか?

まさに、今は教育改革の過渡期です。それも長年続いてきた「教員が主語」の学校から「子どもが主語」の学校に変わろうとしているのです。全国の学校現場が、どこも戸惑い、困るのは当たり前です。ご質問いただいた先生が問われているように、まだまだ従前の悪しき学校文化から抜け出せていない現状があるのも当然のことかもしれません。だからと言って、あきらめるのでは、人任せもいいところです。

日本の学校教育の最大の課題は、「当事者意識の欠如」だと言われています。少なくとも、「子どもが主語」の授業づくり・学校づくりについて、自分1人からできることを一緒に探ってみませんか?  私は、近い未来に必ず「子どもが主語」の学校現場に変わるとの展望をもっています。

「子どもが主語」の学校づくりをするために自分からできること

今回は次の2つの視点から考えてみましょう。

1.なんのための「子どもが主語」なのか

どうして、今、「主語を子どもに」とのフレーズが語られるようになったのでしょうか。それは、学習指導要領の目指す学力の上位目標は「自律する力」だからです。「自律する力」とは、自分で考え、判断し、決定し、行動する力です。

行動すれば失敗はつきものです。失敗したらやり直せばいいのです。どんどん失敗をして、その都度やり直しをすれば、すべての体験が成功体験に変わります。

従前のように、先生の指示を守る子どもや規則を守る子どもが育つだけでは、10年後の社会で「生きて働く力」につながらないことは明白です。今も、科学技術が予想を超えたスピードで進化しています。目の前の子どもたちの10年後を想像してみてください。こんな変化の激しい時代を生きていくために不可欠な力は何かを想像するだけで、平素の授業の目的を問い直さなければならないことに気付くでしょう。

これからは、これまでのように、入試問題で問われるような「正解を覚えて、正確にアウトプットする力」を求める社会は待っていないのです。「世の中いつ何が起きるかわからない!」が、大空小では合言葉になっていました。予測困難な「多様性・共生社会」が待っているのです。

その社会の中で、なりたい自分になるために必要不可欠な力が、「自律する力」です。これまで通り、「いかに教えるか」を授業の目的に置き、教材研究も半端なくやらなければ授業ができないと思っていませんか? 教科学習はあくまで手段であり、授業の目的は、すべての子どもが「自分で考え、判断し、決定し、行動する力」をつけることにあるのです。おのずと教員のやるべきことは、変わらなければならないはずです。

毎時間の授業の課題とまとめが外れなければ、授業は進みます。教員の握っていた「教える」仕事を手放してみませんか? 「今日の課題を解決するために、グループで進めてよ」と言ってみませんか?

子どもたちが困ったときに登場するのが教員の役割です。年度当初に教員が教えることは、子ども同士が学び合えるための「学び方」です。私は教育実習で出会った指導教諭のおかげで、このコーナーで伝えている授業に新任時代(半世紀前!)からチャレンジし続けました。時代がどれだけ変わろうと、「いいものはいい」と、子どもの事実に学んできました。

みなさんの中には、「『学び方』ってなんだろう?」「『自律する力』を目的に授業するってどうすればいいのだろう?」などと、「モヤモヤ」が生まれているのではないでしょうか。この「モヤモヤ」がとても大切なのです。手さぐりでいいので、「教える」ことを手放してみてください。子どもは確実に自分のために学び始めます。

2.決めるのは自分です

私は新任時代、周りの先生たちがしておられる授業とまるで違う授業をしていました。というより、そんな授業しかできなかったのです。中学校の体育の教員になることだけを考えていた私に、突然、小学校にという通知が来たのです。大学では、ほとんどの時間、選手生活に明け暮れたこともあり、たったの2週間だった小学校の教育実習で体得した、その指導教諭の授業しか知らなかったのです。

初任当時の学校では、先輩の先生方から何度も呼び出されてお叱りを受けることが日常でした。目に見える子どもの事実が違うのです。周りの学級の子どもたちは整然と着席し、先生の話をしっかり聞いている。私の学級の子どもたちは常に動きがあり、子ども同士が学び合っているのです。まさに、今の学習指導要領で求められる学力ですが、その当時は誰一人認めようとはしない、そんな時代でした。どれだけ時代が変わろうと、変わらないものは、「目の前の子どもの事実」がすべての実践の結果であるということです。

4月からの新たな出会いの中で、ほんの少し自分を変えてみませんか。自分のことを決めるのは、子どもも大人も、自分です。

〇「子どもが主語」の教育の実現に向けて、まずは、授業づくり・学校づくりについて、自分1人からできることを探ってみよう。
〇これからの時代に必要とされるのは「自律する力」。すべての子どもが「自律する力」をつけることを授業の最終目的として、「教える」ことを手放してみよう。
〇「目の前の子どもの事実」こそがすべての実践の結果であることを忘れずに、まずは自分自身を変えていってみよう。

 【関連記事はコチラ】
【木村泰子の「学びは楽しい」#12】マスクを外せない子どもたち
【木村泰子の「学びは楽しい」#11】10年後の子どもの姿を想像していますか?
【木村泰子の「学びは楽しい」#10】子どもの聞こえない声を聴いていますか?

※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました